アマルティア・セン【福祉の経済学】Functioningsやケイパビリティアプローチなどわかりやすく解説

Introduction:アマルティア・センはどんな人?

アマルティアセンAmartya Sen)は、

厚生経済学や開発経済学を専門とするインドの経済学者で、アジア初のノーベル経済学賞受賞者

です。

センは、ベンガル飢饉を経験したことで、貧困や福祉といった問題を扱う経済学を学ようになりました。

センは、新たな概念を用いて福祉を経済学的に分析しました。

本記事では、センの「福祉の経済学」を解説していきます。

アマルティア・セン【福祉の経済学】 要点
・Well-being:肉体的・精神的・社会的に良好な状態であるかを指す概念
・Well-beingの計測方法
 ・経済学:財の量=豊かさ
 ・新古典派経済学:効用(消費によって得られる満足度・充足度)
 ・セン:Functionings(その人による行為(doing)と在り方(being)によって「達成されたこと(Achievement)
・ケイパビリティ:実現可能なfunctioningsの集合

Part 1:内容解説【福祉の経済学】

「福祉の経済学」は、厚生経済学というジャンルに分類されます。

厚生経済学とは、

様々な状況が経済的に最適な状態とは何か、それを達成するにどうするかといったことを分析する経済学の一分野

です。

厚生経済学では、貧困健康豊かさといった分野を経済学的な視点から分析します。

「福祉の経済学」を①Well-beingの計測 ②ケイパビリティアプローチという2点から解説していきます。

1−1 Well-beingの計測

センは、厚生経済学において「人間の生活の良さ」を適切に計測するには、既存の経済学の考え方では不十分であると考え、Well-beingを用いるべきであると主張しました。

Well-beingは、

肉体的・精神的・社会的に良好な状態であるかを指す概念

です。

これは、心身の健康具合や社会的に置かれている状況などをトータルして、暮らしの良さを算出したものです。

例えば、心身ともに健康であっても、差別などにより社会的に迫害されている場合は、Well-beingは良好であるとは言えません。

Well-beingは、良好性幸福福利といった言葉で翻訳されますが、本来の意味を適切に反映している熟語は、決定されていません。

では、どうやってWell-beingを計測すればいいでしょうか?

ここでは、伝統的な経済学、新古典派経済学、センのFunctioningsという3つを解説します。

1−1−1 経済学における計測方法

従来の経済学では、豊かさどれだけ財を所有しているか)で測りました。

経済学では、その人の持っている財の量という豊かさに着目することでWell-beingを計測していました。

しかし物質的豊かさだけでは、心身の健康状態といった幸福度を計測することができないという限界がありました。

例えば、多くの財産やお金があったとしても不健康であったり、社会的に差別をされていたりした場合、Well-beingが良い状態とは言えません。

物質的な側面だけに着目したこの方法では不十分であると言えます。

1−1−2 新古典派経済学における計測方法

新古典派経済学では効用価値説に基づいて、Well-beingを効用で測りました。

効用は、消費によって得られる満足度・充足度のことで、経済学の基本的な概念です。

しかしセンは、効用では、2つの理由から適切にWell-beingを計測できないと主張しました。

1つ目に、物理的条件を無視し、精神的な満足度しか反映していないということです。

例えば、炊き出しのご飯に幸福を感じるホームレスと高級レストランで食べるフレンチが美味しくないと嘆くお金持ちではどちらが幸せであると言えるでしょうか?

効用のみに着目すると、ホームレスの方が幸福であると言えるかもしれませんが、暮らしの環境といった物理的な充足を無視しているため、適切にWell-beingを反映しているとは言えません。

2つ目に、評価の無視です。

精神的な満足度を反映する効用は、個人の置かれている状況によって幸福の尺度が大きく変わってしまいます。

例えば、毎日空腹に苦しんでいる途上国の子どもたちは、少しのご飯で喜びを見出すかもしれません。

これは、自分の置かれている状況への諦めから本来の欲望を抑圧されている状態であると言えます。

このような状況では、過大な欲望を保たないように抑えられており、その状態での主観的評価である効用は、Well-beingを反映できないというのが、センの考え方です。

以上の2点が効用の限界であるとセンは指摘します。

1−1−3 セン:Functionings(機能)

センは、Well-beingをfunctionings機能)で測るべきだと主張しました。

Functioningsとは、

その人による行為(doing)と在り方(being)によって「達成されたこと(Achievement)」

です。

経済学が使用する財の豊かさは物理的側面のみをフォーカスし、新古典派の効用は、精神的側面のみを反映したものです。

従来の経済学・新古典派経済学では、車を持っているか()・車を買うことで得られる幸福感(効用)といったことでWell-beingを測っていました。

センは、Functioningsは、効用などではカバーできないWell-beingを計測していると言います。

Functionings(機能)は、「達成している状態」と言い換えることができます。

例えば、教育は行き届いているか、移動能力があるか、安全な水へのアクセスがあるかといったことが挙げられます。

Functioningsはどのように機能し、どのような行為でどのような状態になっているかを反映し、物理的側面と精神的側面の両方をカバーしています。

またFunctioningsは、その人ができること(doing)とその人の状態(being)を区別し、達成できることでWell-beingを測るべきであると言われています。

Functioningsは、あくまで個人の状態・状況を反映しているものであるため、それを達成するための財の豊かさとは区別されるべきです。

例えば、車を所有していることと、車を運転することは区別するべきということです。

また、functioningsとfunctioningsによって得られた幸福を区別しなければなりません。

例えば、車を運転して様々な場所へ出かけることと、それによって得られる幸福を区別するべきということです。

1−2 ケイパビリティアプローチ(潜在能力アプローチ)

センは、このようなFunctionings(機能)の集合をケイパビリティ潜在能力)と呼び、このような分析方法をケイパビリティアプローチと呼びました。

一般的にケイパビリティは「能力」と訳されます。

センは、「実現可能なfunctioningsの集合」をケイパビリティと呼び、その人が達成できることを分析することで、Well-beingを計測できると考えました。

これは、実現可能な選択肢の幅(Capability)によってWell-beingが異なると言えます。

例えば、健康なホームレスと健康なサラリーマンは、健康というFunctioningにおいては同じであると言えます。

しかし、健康なホームレスは大学に行ったり、弁護士になるといった選択肢を実現するのが難しく、健康なサラリーマンは、転職して一流会社に勤めたり、大学院で学び直すなど、実現可能な選択肢の幅が大きいと言えます。

1つのfunctioningsに着目するだけでは不十分であるため、functioningsを集合させたケイパビリティが有効であるということです。

センはケイパビリティの例として、長寿や基礎教育、医療、雇用、自由などを挙げました。

しかしセンは、Well-beingを適切に反映するためのケイパビリティのリストを作ることはしませんでした。

その理由は、そのリストを作ることで一方的な価値観を強制することになるためです。

これがケイパビリティアプローチの不完全性であるとセンは考えました。

万人に共通するケイパビリティを作ることは不可能であるため、個別の具体的な事象ごとにケイパビリティを検討すれば良いと結論づけられました。

Part 2:おすすめの書籍

もっとセン・「福祉の経済学」を学びたいという人は、以下の書籍がおすすめです。

Part 3:まとめ

いかがでしたか?

福祉の経済学」をまとめると、

アマルティア・セン【福祉の経済学】 要点
・Well-being:肉体的・精神的・社会的に良好な状態であるかを指す概念
・Well-beingの計測方法
 ・経済学:財の量=豊かさ
 ・新古典派経済学:効用(消費によって得られる満足度・充足度)
 ・セン:Functionings(その人による行為(doing)と在り方(being)によって「達成されたこと(Achievement)
・ケイパビリティ:実現可能なfunctioningsの集合

以上です。

Web大学 アカデミアは、他にも様々なジャンル・トピックを解説していますので、是非ご覧ください。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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