リアリズム(現実主義)とは、
です。
リアリズムは、国際関係・国際政治を学ぶ上で、最も基礎的な理論です。
本記事では、国際関係におけるリアリズムの特徴や歴史的展開、批判などを解説していきます。
・特徴:無政府状態・国家中心主義・安全保障・権力闘争
・歴史:トゥキュディデス・マキャベリ・ホッブズ・EHカー&モーゲンソー
・批判:
・国際社会のアクターは主権国家だけではない
・パワーは軍事力に限らない
・国家の目標は安全保障だけではない
・国際社会は権力闘争のみではない
Part 1:特徴
リアリズムは、主に以下の4つの特徴があると言われています。
1−1 無政府状態
リアリズムは、国際社会には世界政府が存在しない無政府状態(アナーキー)であるため、主体は主権国家であると考えます。
主権国家が国際社会の最高の権力アクター(行為主体)であり、上位の権力(世界政府)は存在しません。
国内社会では、企業や個人といったアクターの上位に政府が存在しており、治安維持や統治を行っています。
そのため、国家権力や警察権力などによって治安が維持されます。
しかし、国際社会では国家より上位の権力が存在しないため、国際社会でのトラブルや治安維持は国家間で行う必要があります。
リアリズムはこのような状態を前提としています。
1−2 国家中心主義
リアリズムの2つめの特徴として、国家中心主義が挙げられます。
国家中心主義は、
です。
無政府状態の国際社会では、最高権力である主権国家が自国の利益を追求し、権力闘争を繰り広げます。
主権国家は自己中心的に国益の増進に励むと言うのがリアリズムの前提です。
1−3 安全保障
リアリズムの3つ目の特徴として、安全保障の重視が挙げられます。
国際社会では国家を守ってくれる上位の権力がないため、各国は安全保障が重要な目標となります。
国益を追求する主権国家が多く存在する国際社会では、様々な衝突や軋轢が予想されます。
そのため、安全をどのようにして確保するかというのが国家の重要な目標になります。
他国との同盟や自国の軍事力増強などを通して安全保障を達成しようとします。
1−4 権力闘争と勢力均衡
リアリズムの4つ目の特徴として、権力闘争(パワーポリティクス)が挙げられます。
国際社会では、主権国家がパワー(権力や軍事力)を行使して覇権を争っています。
リアリズムでは特に軍事力がパワーとして認識され、その大きさで国家間の関係が出来上がります。
そして、国際社会における国家間のパワーが均衡する「勢力均衡」というメカニズムが発生します。
勢力均衡の勢力図は、時代や世界情勢によって異なります。
冷戦時代のアメリカとソ連の二極システムや、アメリカ一強時代の覇権システムなど、軍事力や体制によって変化します。
Part 2:歴史的展開
リアリズムは古代ギリシャから存在し、現代まで様々な思想家によって受け継がれています。
1−1 トゥキュディデスのリアリズム
トゥキュディデスは古代アテネの歴史家で、「戦史(ペロポネソス戦争の歴史)」を著しました。
ペロポネソス戦争は、紀元前431年から紀元前404年にかけて、アテネとスパルタが戦った戦争です。
トゥキュディデスは、この戦争を描いた「戦史」を通じてリアリズム的な考えを展開しました。
トゥキュディデスは、アテネの勢力拡大がスパルタの恐怖心を煽り、そのパワーの格差がペロポネソス戦争の原因であると主張しました。
このように、勢力不均衡やパワーの関係によって戦争が引き起こると言うのがトゥキュディデスの考えです。
1−2 マキャベリのリアリズム
マキャベリは、1469年〜1527年にイタリアのフィレンツェで活躍した政治思想家・外交官です。
マキャベリは、「君主論」の中でリアリズム的な思想を展開しました。
これは、君主が自己利益の追求を行動原理としていることや、他国に打ち勝つためには冷徹な手段も許されるといった主張でした。
また、法律やパワーを用いて他国に打ち勝つと言う思想でした。
このようなマキャベリの思想をマキャベリズムと言います。
1−3 ホッブズのリアリズム
社会契約論や「リヴァイアサン」などで有名なトマス・ホッブズもリアリズム的な考えを持っていました。
ホッブズは、無政府状態である国際社会を「万人の万人に対する闘争」と比喩しました。
人間は本来権力を持ちたいと言う欲があるため、無政府状態では、万人が暴力や略奪などをする無秩序の状態になると考えました
リヴァイアサンについて詳しくまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。
Introduction:トマスホッブズってどんな人?
トマス・ホッブズとは、
トマス・ホッブズ
・1588年〜1679年に活躍したイングランドの哲学者
・主な著作:「リヴァイアサン」[…]
1−4 現代のリアリズム(E・H・カー、モーゲンソー)
トゥキュディデスやマキャベリ、ホッブズによって受け継がれたリアリズムは、第一次世界大戦後に、E・H・カーやハンス・モーゲンソーによって発展しました。
E・H・カーは、「危機の20年」の中で、ユートピアニズム(理想主義)とリアリズム(現実主義)を比較しながら、リアリズムを主張しました。
第一次世界大戦の反省から作られた国際連盟が機能せず、第二次世界大戦に突入したことを指摘し、パワーの重要性を主張しました。
モーゲンソーは「国際政治」という著書の中で、先述したリアリズムの特徴を展開しました。
現代のリアリズムは、この2人によって体系化されたと言えます。
Part 3:リアリズム批判
リアリズムの理論も複数の観点から批判されています。
3−1 国際社会のアクターは主権国家だけではない
リアリズムは、無政府状態の国際社会では主権国家のみがアクターであると考えます。
しかし、現実には国連やWHOといった国際機構やグローバル企業、国際NGOといった非国家のアクターが存在しています。
リアリズムは、このような現実を反映していないという批判があります。
3−2 パワーは軍事力に限らない
リアリズム批判の2つ目は、パワーは軍事力に限らないという点です。
伝統的には軍事力のみがパワーとみなされてきましたが、経済発展した現代では経済力や文化の力といったソフトパワーが顕在化しています。
特に現代における経済力は非常に強力なパワーを有しており、国際社会における重要な指標の一つとなっています。
3−3 国家の目標は安全保障だけではない
リアリズム批判の3つ目は、国家の目標は安全保障だけではないという点です。
リアリズムでは、国家の最重要目標として安全保障を掲げています。
しかし、国家は経済的・文化的な繁栄といったことが重要視されてきています。
安全保障のみが目標というのは不十分であるというのがリアリズム批判です。
3−4 国際社会は権力闘争のみではない
リアリズム批判の4つ目は、国際社会は権力闘争のみではないという点です。
リアリズムでは、国際社会が権力闘争の場として考えられています。
しかし現実では、国際協力や文化交流、経済的な相互依存など、権力闘争ではなく、協調的な動きが見られます。
国際社会を権力闘争の場としてのみ見るリアリズムには限界があるというのが批判です。
Part 4:おすすめの書籍
もっとリアリズム・国際政治を学びたいという人は、以下の書籍がおすすめです。
Part 5:まとめ
いかがでしたか?
リアリズムをまとめると、
・特徴:無政府状態・国家中心主義・安全保障・権力闘争
・歴史:トゥキュディデス・マキャベリ・ホッブズ・EHカー&モーゲンソー
・批判
・国際社会のアクターは主権国家だけではない
・パワーは軍事力に限らない
・国家の目標は安全保障だけではない
・国際社会は権力闘争のみではない
以上です。
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最後までご覧いただきありがとうございました。