【安全保障】理論や歴史、種類など、国際政治における安全保障をわかりやすく解説

Introduction:安全保障とは?

安全保障(Security)とは、

集団の生命・財産を脅威から守り、安全を保障すること

です。

安全保障は、国際政治における非常に重要な概念です。

【安全保障】 要約
・安全保障の種類
 ・伝統的安全保障:国家安全保障
 ・非伝統的安全保障:総合安全保障・集団安全保障・共通の安全保障・協調的安全保障・人間の安全保障
・歴史:ウェストファリア、第一次世界大戦、第二次世界大戦、冷戦、テロを通じた安全保障の変化
・安全保障のジレンマ:軍備増強や同盟の強化といった自国の安全保障の行動が、他国にとっての相対的な脅威を高める結果となって、衝突していないのにも関わらず、他国も安全を強化する行動を取ることで緊張関係が生まれてしまうジレンマ
・モデル:勢力均衡・集団安全保障、デモクラティックピース論、覇権安定論

本記事では、安全保障について解説していきます。

Part 1:安全保障の種類

安全保障は、伝統的安全保障と非伝統的安全保障の2つに分けられます。

1−1 伝統的安全保障:国家安全保障

伝統的安全保障(Traditional security)とは、

国の領土や政治を脅かすような軍事的脅威に対して、軍事力を中心とするハードパワーを用いて、脅威から自国を防衛すること

です。

伝統的安全保障は、国際政治におけるリアリズムの伝統を受け継いでいます。

国際関係におけるリアリズムについてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事

Introduction:リアリズム(現実主義)とは? リアリズム(現実主義)とは、 アナーキー(無政府状態)の国際関係を国家中心主義や権力闘争といった点から分析する理論 です。 リアリズムは、国際関係・国際政治を学ぶ上で、最も[…]

リアリズム

伝統的安全保障は、基本的に国家安全保障(National security)を意味します。

国家安全保障は、主権国家を行為主体(アクター)として捉え、他国の軍事的脅威から自国の領土・国民を防衛することを目的としています。

また、軍事的側面にのみ注目している点が特徴的であるといえます。

歴史的に、国際社会における国際関係では、他国からの侵略といった軍事的な脅威が唯一の自国の安全を脅かすものでした。

そのため、伝統的に軍事的脅威からの安全を重視する国家安全保障が伝統的でしたが、社会・経済発展に伴って、非軍事的な脅威が登場したことで、非伝統的な安全保障が重視されるようになりました。

1−2 非伝統的安全保障

非伝統的安全保障(Non-traditional security)とは、

国家の非軍事的脅威に対し、社会や経済といった非軍事的な力のソフトパワーを用いて、脅威から自国を防衛すること

です。

軍事的脅威からの安全を目指す伝統的安全保障に対し、非伝統的安全保障は、経済や感染症、気候変動といった非軍事的な脅威に着目します。

非伝統的安全保障は、総合安全保障経済安全保障人間の安全保障などが挙げられます。

1−2−1 総合安全保障

総合安全保障(Comprehensive security)とは、

安全保障の軍事的側面と非軍事的側面の両方に加え、自然の脅威や国内からの脅威といった様々な脅威に対する安全保障

です。

総合安全保障は、軍事的側面にのみ着目する伝統的安全保障とは異なり、非軍的側面も包括した安全保障を意味します。

非軍事的脅威

・経済

・自然災害・気候変動

・エネルギー

・食糧

・外交関係

・情報

などが挙げられます。

非軍事的脅威は、経済発展や社会の変化に伴って変化していくため、増えていく可能性があります。

このような非軍事的脅威に対する安全保障の概念は、

安全保障の諸概念

経済安全保障

・食糧安全保障

・環境安全保障

・エネルギー安全保障

・情報安全保障

・海洋安全保障

など、様々な概念が唱えられています。

1−2−2 集団安全保障

集団安全保障(Collective security)とは、

国際的な集団を構築し、秩序を乱す国に対して制裁を加えることで安全保障を試みる体制

です。

集団安全保障は、第一次世界大戦後、ウィルソン大統領主導で設立された国際連盟が代表的です。

国際連盟は、第一次世界大戦の反省から、国際協調によって世界大戦を回避することを目指して設立されましたが、大国が不参加だったことや全会一致の原則といった点から機能せず、第二次世界大戦の勃発を阻止することができませんでした。

第二次世界大戦後、国際連盟の反省に基づいた国際連合が設立され、集団安全保障体制を強化しました。

集団安全保障体制では、平和に対する脅威とみなされる行動に出る国に対して、制裁を加えて戦争の防止を試みます。

例えば、北朝鮮がミサイル実験を行った場合、国連や各国から経済制裁が加えられるといったことがあります。

国際協調を基盤とする集団安全保障は、リベラリズムの流れにあります。

国際関係におけるリベラリズムについてまとめた記事は、以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事

Introduction:リベラリズム(自由主義)とは? リベラリズム(Liberalism)とは、 国家間の相互依存可能性や国際協調を重視する国際関係論における理論 です。 リベラリズムは、リアリズムと同様に国際関係論で最も基[…]

リベラリズム

1−2−3 共通の安全保障

共通の安全保障(Common security)とは、

敵対する国家間で共通する事項に基づいて脅威を最小限にすることで安全を目指す概念

です。

共通の安全保障は、冷戦期の東西対立で生まれた概念です。

つまり、両陣営にとって核兵器といった軍事的脅威やそれによる被害は共通しており、戦争の回避が共通の利益となるということです。

大国間の戦争は大規模な被害が予想されるため、可能な限り戦争を回避することが共通の利益であると認識されます。

このように、両陣営の共通点や共通認識、共通の利益を見出すことで安全保障を試みるというアプローチです。

1−2−4 協調的安全保障

協調的安全保障(Cooperative security)とは、

国家間の協調的行動で安全保障を目指す概念

です。

協調的安全保障は、潜在的な適性国も含めて協調的な行動を取ることで、潜在的脅威を払拭し、武力衝突を回避しようと試みます。

軍事衝突や経済といった非軍事的脅威を最小限にするために、交流や情報交換といった信頼醸成措置が求められます。

1−2−5 人間の安全保障

人間の安全保障(Human security)とは、

人間の生命を脅かすリスクから安全保障を目指す概念

です。

国家の安全を目指す伝統的安全保障とは異なり、人間個人に注目し、安全の保障を達成しようとするのが、人間の安全保障です。

人間の安全保障が登場したのは、飢餓貧困紛争難民虐殺環境破壊などの国境をこえた地球規模の課題が注目されるようになり、国家の安全保障では対処できなくなったという背景があります。

特に発展途上国において、多くの人間が貧困や紛争といった脅威に晒されていることから、人間の安全保障が重視されるようになりました。

また、人間の安全保障に基づいて、先進諸国は、ジェノサイド(大量虐殺)や人権の抑圧が行われている途上国の紛争地域に「保護する責任」があるとして「人道的介入」を行うようになりました。

人道的介入が行われた事例として、リビア内戦があります。

リビア内戦についてまとめた記事は、以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事

Introduction:リビア内戦とは? リビア内戦(Libyan Civil War)とは、 2011年〜2020年、2度にわたってリビアで起こった内戦 です。 リビアは、エジプトの西隣に位置する北アフリカの国です。 […]

リビア内戦

Part 2:安全保障の歴史

人類は昔から国や民族に分かれて戦争を繰り返してきたため、味方陣営の安全をどのように確保するのか、敵からの脅威からどのように防衛するのかといった概念は存在しました。

しかし、安全保障の概念が本格的に研究されたのは第一次世界大戦期でした。

1648年に締結されたウェストファリア条約によって、主権国家体制が成立し、国家が国際社会における主体となりました。

主権国家体制以前は、諸侯による封建制やキリスト教による宗教的支配によって統治されていました。

ウェストファリア体制についてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事

Introduction:ウェストファリア体制とは? ウェストファリア体制(Westphalian sovereignty)とは 1648年にウェストファリア条約で成立した国際政治体制 です。 ウェストファリア条約は、最大の宗教[…]

ウェストファリア体制

主権国家の成立から19世紀までの国際社会では、自国の安全保障を追求する個別的安全保障が主流であり、各国の軍事行動が第一次世界大戦へとつながりました。

第一次世界大戦についてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事

Introduction:第一次世界大戦とは? 第一次世界大戦とは、 1914〜1918年にかけて、同盟国と協商国が戦った初の世界戦争 です。 第一次世界大戦は、ヨーロッパを主戦場として繰り広げられ、多くの犠牲を払いました。 […]

第一次世界大戦

第一次世界大戦の反省から、集団安全保障に基づいた国際連盟がウィルソン大統領主導で設立されました。

しかし、国際連盟は第二次世界大戦の勃発を防ぐことはできませんでした。

第二次世界大戦についてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事

Introduction:第二次世界大戦とは? 第二次世界大戦(World War II)とは、 1939〜1945年に枢軸国と連合国に分かれた繰り広げた世界戦争 です。 第二次世界大戦は、ドイツ・イタリア・日本の枢軸国陣営とア[…]

第二次世界大戦

第二次世界大戦後は、国際連盟の反省を踏まえた国際連合が設立され、集団安全保障体制が取られました。

しかし、第二次世界大戦の終戦から、国際社会は冷戦へと突入し、東西陣営に分断されました。

冷戦についてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事

Introduction:冷戦とは? 冷戦(Cold War)とは、 アメリカを中心とした西側諸国の資本主義陣営とソ連を中心とした東側諸国の社会主義陣営に分かれて対立した構造 です。 アメリカとソ連が直接的に戦争を行なったわけで[…]

冷戦

第二次世界大戦を通じて核兵器が開発されるなど、大国の軍事力が極めて高くなり、冷戦では核兵器の脅威から大規模な戦争が避けられました。

このような背景から、核兵器の莫大な破壊力が故に戦争を抑止するという核抑止論が登場しました。

しかし、米ソの緊張緩和(デタント)や1991年のソ連崩壊が起きたことで、従来の安全保障研究の説得力が揺らぐことになりました。

その結果、人間の安全保障といった非伝統的な安全保障が重視されるようになっていきました。

さらに、9.11アメリカ同時多発テロの勃発により、安全を脅かすものが国家の軍事的行動ではなく、テロリズムを中心に多様化していることが特徴となりました。

アメリカ同時多発テロについてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事

Introduction:アメリカ同時多発テロとは? アメリカ同時多発テロ(September 11 attacks)とは、 2001年9月11日、イスラム過激組織であるアルカイダがアメリカで行った自爆テロ です。 9.11テロ[…]

アメリカ同時多発テロ

Part 3:安全保障のジレンマ

安全保障のジレンマとは、

軍備増強や同盟の強化といった自国の安全保障の行動が、他国にとっての相対的な脅威を高める結果となって、衝突していないのにも関わらず、他国も安全を強化する行動を取ることで緊張関係が生まれてしまうジレンマ

です。

ある国が軍備増強を行うと、その敵対国にとっての脅威が増えることを意味します。

その脅威に対抗するため、敵対国も軍備増強を行います。

その結果、両国にとっての脅威・緊張関係が増長し、安全が脅かされます。

つまり、自国の安全を高めようとする行動が結果的に自国にとっての脅威の増長させてしまうというのが安全保障のジレンマです。

例えば、冷戦期の米ソ対立が挙げられます。

冷戦では、米ソの直接的な戦闘は回避されましたが、両国は核兵器を大量に開発することで敵国の脅威に対抗しました。

アメリカの核開発がソ連の脅威となり、ソ連も核開発を加速させるというサイクルが進み、両国は大量の核兵器を保有することになりました。

結果的に大規模な戦闘はありませんでしたが、各国の安全保障政策が他国の脅威と高めることで、国際関係は緊張が走りました。

Part 4:安全保障モデル

安全保障には、いくつかの理論・モデルが存在します。

ここでは、その代表的なものを解説します。

4−1 勢力均衡モデル

勢力均衡モデル(Balance of power model)とは、

各国のパワー(軍事力)を均等にすることで、戦争の危険性を下げるモデル

です。

勢力均衡モデルは、19世紀のヨーロッパで国際社会の秩序を安定させるために登場しました。

突出したパワーを持つ国が存在すると、侵略戦争などの可能性が高まるため、国際関係が不安定となります。

そのため、軍備増強や軍縮といった手段を通じて、各国の勢力を均衡させることで平和を維持しようと試みます。

勢力均衡モデルは、ウェストファリア条約による主権国家体制の成立から第一次世界大戦までは国際関係における主流の考え方になりました。

イギリスが均衡調整役として機能していましたが、第一次世界大戦に乗り出すなど、勢力均衡が崩れて戦争に突入しました。

均衡が崩れた場合の危険性や大戦を防止できなったことから、勢力均衡モデルは批判されるようになり、集団安全保障モデルへのシフトが試みられます。

4−2 集団安全保障モデル

集団安全保障モデル(Collective security model)とは、

国際的な集団を構築し、秩序を乱す国に対して制裁を加えることで安全保障を試みるモデル

です。

国連のような各国が参加する組織を結成し、軍事・経済制裁に裏付けられた武力行使の禁止を原則とすることで、平和の維持を目指します。

先述したように、集団安全保障モデルは、第一次世界大戦後にウィルソン大統領主導で設立された国際連盟が代表的です。

国際連盟が第二次世界大戦を防げなかった反省から、国際連合が結成され、集団安全保障体制が成立しました。

国連以外には、EUやNATOといった国際組織も集団安全保障モデルの代表例です。

しかし、集団安全保障モデルは、紛争を解決できていない点や大国の利益を優先しているといった批判もあります。

4−3 デモクラティックピース論

デモクラティックピース論(Democratic Peace Theoty)とは、

民主主義国家同士は、戦争を行わないという理論

です。

デモクラティックピース論は民主的平和論とも呼ばれ、民主主義国家が起こす戦争の可能性を楽観的に捉えています。

デモクラティックピース論は、民主主義というプロセスを通じて決定される決定では戦争が起きる可能性が低いという構造と民主主義の平和的な規範に着目し、戦争可能性が低いと論じました。

デモクラティックピース論は、カントの「永遠平和のために」を源流とし、理想主義的な思想を基盤としています。

しかし、実際には民主主義国家も戦争を行なっていることから、デモクラティックピース論は批判されています。

デモクラティックピース論についてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事

Introduction:デモクラティックピース論(民主的平和論)とは? デモクラティックピース論(Democratic Peace Theory)とは、 民主主義国家同士は、戦争を行わないという理論 です。 デモクラティックピ[…]

デモクラティックピース論

4−4 覇権安定論

覇権安定論とは、

世界的に圧倒的なパワーを有した覇権国がいることで国際社会が安定するという理論

です。

アメリカのような圧倒的なパワーを持つ覇権国が存在することで、平和を乱す行動に出る可能性が低くなるという考えです。

覇権国は、軍事力・経済力・政治力・技術力において、他国を圧倒する力を持っている必要があり、国際社会の秩序を安定させるという役割があります。

アメリカが未だに覇権国であるかは、議論の余地があると言われています。

このように、パワーを有する一国が平和を維持するという考えを単極平和論と言い、東西冷戦の米ソのように、圧倒的なパワーを有する二国が拮抗することで平和が維持される考えを双極平和論と言います。

また、複数の国家の勢力均衡による平和維持は多極平和論と呼ばれます。

覇権安定論についてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

関連記事

Introduction:覇権安定論とは? 覇権安定論(Hegemonic Stability Theory)とは、 世界的に圧倒的なパワーを有した覇権国がいることで国際社会が安定するという理論 です。 覇権安定論は、リアリズム[…]

覇権安定論

Part 5:おすすめの書籍

もっと「安全保障」を学びたいという人は、以下の書籍がおすすめです。

Part 6:まとめ

いかがでしたか?

「安全保障」をまとめると、

【安全保障】 まとめ
・安全保障の種類
 ・伝統的安全保障:国家安全保障
 ・非伝統的安全保障:総合安全保障・集団安全保障・共通の安全保障・協調的安全保障・人間の安全保障
・歴史:ウェストファリア、第一次世界大戦、第二次世界大戦、冷戦、テロを通じた安全保障の変化
・安全保障のジレンマ:軍備増強や同盟の強化といった自国の安全保障の行動が、他国にとっての相対的な脅威を高める結果となって、衝突していないのにも関わらず、他国も安全を強化する行動を取ることで緊張関係が生まれてしまうジレンマ
・モデル:勢力均衡・集団安全保障、デモクラティックピース論、覇権安定論

以上です。

Web大学 アカデミアは、他にも様々なジャンル・トピックを解説していますので、是非ご覧ください。

最後までご覧いただきありがとうございました。

広告
安全保障
最新情報をチェックしよう!
>