Introduction:マルサスってどんな人?
マルサス(Malthus)とは、
1766年〜1834年にイングランド出身で活躍した古典派経済学を代表する経済学者。
です。
マルサスは「人口論」を著し、マルサスの罠や予防的制限・積極的制限などを唱えました。
マルサスは、スミスやマルクスより知名度は劣るのではないでしょうか。
しかし、「人口論」には経済学や開発・国際協力を学ぶ上でとても重要な思想が含まれています。
本記事では、人口論の時代背景と内容について解説していきます。
Part 1:時代背景:戦争問題による貧困と救貧法
当時のイギリスは、フランスとの戦争によって、物価が高騰やホームレスの急増が起こり、社会問題へと発展しました。
その対策として、救貧法の改正が検討されました。
救貧法とは、
貧民増加による秩序不安定の是正のための法。貧困層の生活を救済する法。
です。
救貧法は1600年頃からありましたが、この経済危機に際して救貧法を強化しようと言う議論が起こりました。
しかし、マルサスは救貧法を批判し、福祉的な政策に反対しました。
なぜマルサスは救貧法に反対したのでしょうか?
その理由を「人口論」の内容とともにわかりやすく解説していきます。
Part 2:内容解説
人口論とは、
人口と生活資源の増加速度から、貧困の原因は人口増加であると述べたマルサスによる古典的著作。
です。
- 過剰人口が貧困の原因
- スミスの楽観論批判:市場では貧困層は豊かにならない
- マルサスの罠:人口増加で「生存水準」になる
- 貧困の原因:人口増加速度>生活資源の増加速度
- 予防的制限:計画的な人口コントロール
- 積極的制限:天災・疫病による意図しない人口減少
- 救貧法批判:援助はさらなる貧困を生み、勤労のインセンティブを奪う
2−1 マルサスのスミス批判
マルサスは、アダムスミスの楽観論を批判しました。
スミスは、「国富論」のなかで、市場経済の発展にともなって下層階級まで富が行き渡るため、貧困が解消されると主張しました。
マルサスは、このようなスミスの市場に任せた楽観的な考えに反対しました。
市場が発達しても貧困層は豊かにならないと主張し、人口増加が貧困を引き起こすと主張しました。
アダム・スミスについてまとめた記事は以下のリンクです。是非ご覧ください。
2−2 貧困の原因は過剰人口:マルサスの罠
マルサスは、「マルサスの罠」が貧困の原因であると主張しました。
マルサスの罠とは、
人口と生活資源の増加速度は人口増加速度の方が早いため、人々の生活は常に生活水準になると言う考え
です。
① 人口増加速度は等比数列的に増大
マルサスは、人口の増加速度は等比数列的に増大すると考えました。
ひとつの夫婦が4人の子供を生むと仮定すると(一人当たり2人の子供を生む)
② 生活資源の増加速度は等差数列的に増大
マルサスは、生活資源の増加速度は等差数列的に増大すると考えました。
各世代(25年)に 100kg ずつ生活資源である食料の生産を増やせると仮定すると
人口と食料の増加速度を比較すると、
人口が増えるほど、一人当たりの食料が少なくなります。
第10世代では、一人当たり1kg以下しか食糧を得ることができず、貧困に陥ります。
時間が経つにつれて、貧困が深刻化していきます。
このように、人口増加によって生活必需品が不足し、最低生活水準である「生存水準」(ギリギリ生きていける)に落ち着きます。
2−3 人口増加はどうやって制限されるか:予防滴制限と積極的制限
ではどうやって人口増加を抑制できるでしょうか?
マルサスは、予防滴制限と積極的制限という二種類を提示しました。
2−3−1 予防的制限:人口抑制
予防的制限とは、
事前の計画によって人口を意図的に抑制すること。
です。
これは人口増加を抑制するため、計画的に結婚や出産を制限し、人口をコントロールすることです。
結婚を制限することで、出生率の低下を招き、人口増加を抑えることが見込めます。
中国の一人っ子政策などが有名な例だと言えます。
しかしマルサスは、予防的制限は機能しにくいと考えました。
なぜならば、異性間の性欲を抑えることはできないため、出生率を下げることは難しいという前提を置いていたためです。
2−3−2 積極的制限:人口減少
積極的制限とは、
飢饉・疫病・戦争などによって死亡率が上昇し、人口が減少すること。
です。
昔は、飢饉や疫病、戦争で多くの人々が亡くなりましたが、中でも特に貧しい人々が犠牲になってきました。
食料を手に入れたり病院に行ったりすることができない貧困層が多く亡くなることで、人口が減少した時期が度々ありました。
このように、意図しない天災や疫病などによって人口が減少することが積極的制限です。
では貧困根絶のために何ができるのでしょうか?
2−4 貧困根絶のためにできること
マルサスは、貧困根絶のためにできることは何もないと主張しました。
なぜならば、人間は性欲を抑えられないため、人口は増え続け、貧困に陥るからです、
先述したように、当時のイングランドでは救貧法を強化する議論が行われていました。
マルサスは、救貧法による援助によって2点のデメリットがあると考えました。
① 援助はさらなる貧困を生む
援助をすることで、食料の増加をすることなく人口を増加させることにつながると唱えました。
救貧法による援助で貧困層の結婚が促進されると仮定しました。
それに伴う出生率上昇と人口増加で、結果的に貧困はより深刻化するということです。
② 援助は節約と勤労のインセンティブを奪う
貧困層は援助をもらうことによって節約と勤労の努力を怠るようになると考えました。
生きるために必死に働かなくても援助によって生活することができるため、節約と勤労のインセンティブが奪われるということです。
これは、現代の生活保護や発展途上国への支援にも通じる問題です。
援助による弊害を描き出したドキュメンタリーに「ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~(Poverty, Inc)」という作品があります。
以下のリンクから予告編がご覧いただけます。
Part 3:おすすめ本
もっと「人口論」・マルサスを学びたいという人は、以下の書籍がおすすめです。
Part 4:まとめ
いかがでしたか?
「人口論」をまとめると、
- 過剰人口が貧困の原因
- スミスの楽観論批判:市場では貧困層は豊かにならない
- マルサスの罠:人口増加で「生存水準」になる
- 貧困の原因:人口増加速度>生活資源の増加速度
- 予防的制限:計画的な人口コントロール
- 積極的制限:天災・疫病による意図しない人口減少
- 救貧法批判:援助はさらなる貧困を生み、勤労のインセンティブを奪う
以上です。
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最後までご覧いただきありがとうございました。