Introduction:ベンサムはどんな人?
ジェレミ・ベンサム(Jeremy Bentham)とは、
1748年〜1832年にイギリスで活躍し、功利主義を唱えた哲学者・経済学者・法学者
です。
ベンサムは「道徳および立法の諸原理序説」の中で功利主義を唱え、体系化したことで有名です。
功利主義は、経済学や政治学を学ぶ上で非常に重要な概念であり、体系的に学ぶことをお勧めします。
本記事では、①功利主義の内容解説 ②ベンサム主義の影響を解説していきます。
Part 1:内容解説:功利主義
功利主義(Utilitarianism)とは、
制度や行為の社会的な望ましさは、それによって生じる功利(効用)によって決まるという考え方
です。
定義だけではわかりにくいため、順を追って解説していきます。
- 快楽主義:快楽=善 苦痛=悪
- 功利主義:快楽を増大させて、苦痛を減少させる
- 社会全体の利益は個人の効用の合計
- 快楽計算:快楽と苦痛の量を計算して、善悪を判断
- 制裁によって、社会の利益を確保
1−1 快楽主義
ベンサムは、「快楽主義」に基づいて功利主義を唱えました。
快楽主義(hedonism)とは、
快楽を幸福とみなし、それに伴う行為や行いが善であるという倫理学的立場
です。
ベンサムは、快楽は効用を高める善であり、苦痛は効用を下げる悪であると考えました。
快楽=効用を高める=善
苦痛=効用を下げる=悪
そのため、各個人の行為や政府の政策・社会的制度などは、効用を基準に正当化されるべきであると主張しました。
そして、社会にとっての利益は各個人の利益の合計によって成り立ち、政府は社会の利益を増大する政策を行うべきだと述べました。
では、どのように個人の効用が集計され、社会の利益が計算されるのでしょうか。
それが、次のパートで解説する快楽計算です。
1−2 快楽計算
快楽計算とは、
快楽と苦痛の大きさを差し引きし、善悪を判断する計算
です。
ここでは、快楽計算の計算方法と特徴について解説していきます。
1−2―1 計算方法
快楽計算は、3つのステップで行われます。
① 各個人の快楽・苦痛を測定する
快楽・苦痛を測るために、4つの指標が用いられました。
1強さ 2持続性 3確実性or不確実性 4遠近性
の4つです。
これらの指標から快楽・苦痛の大きさを測定しました。
② 各個人のすべての快楽・苦痛を総計し、計算する。
①で測った個人の快楽・苦痛を計算し、善悪を判断します。
差し引きの結果、快楽が多ければ効用が高いと見なされ、より望ましいと考えられます。
反対に、数値が低ければ効用が低いと見なされ、より望ましくないと考えられます。
③ 社会全体の快楽・苦痛を総計し、計算する。
②と同様に、社会全体の快楽・苦痛を計算し、善悪を判断します。
このように、社会全体の効用を計算し、望ましいものを導き出します。
以上のプロセスを通して快楽・苦痛の大きさを計算し、社会にとって望ましい選択ができると唱えました。
1−2−2 快楽計算の特徴
快楽計算には、2つの特徴があります。
1つ目は、最大多数の最大幸福です。
社会全体の利益(=快楽ー苦痛)の大小で善悪が判断されるため、多数派が尊重される仕組みになっています。
これを「最大多数の最大幸福」と言います。功利主義の重要な特徴です。
これに対して多数派の専制や少数派の無視などの批判が挙げられます。
2つ目は、平等主義です。
これは、各個人の快楽・苦痛を計算するときに、誰もが平等に計算されるという意味です。
貴族であれ、一般市民であれ、快楽の集計では同一のウェイトしか持っていません。
「誰でも一人として数え、誰も一人以上として数えるな」と言われています。
では、どのようにして社会の効用が最大化されるような行動を個人にとらせることができるのでしょうか。
1−3 制裁
社会の利益最大化(=快楽の増大と苦痛の減少)という目的を達成するために、ベンサムは、「制裁」によって統治すべきであると主張しました。
この制裁もまた、快楽と苦痛を用いて効用を最大化しようとしました。
制裁には4種類あると考えました。
1物理的制裁 2政治的制裁 3宗教的制裁 4道徳的または大衆的制裁
ベンサムは、この4つの制裁を用いて社会の利益を最大化すべきであると唱えました。
以上のように、ベンサムは快楽主義に基づいて、快楽計算と制裁を用いて功利主義を唱えました。
Part 2:ベンサム主義の影響
ベンサムの功利主義に基づいた4つの影響・発明を紹介します。
① パノプティコン
② 功利主義的自由放任論
③ 教育改革運動
④ 奴隷制への反対
2−1 パノプティコン
パノプティコンとは、
ベンサムが構想し、全展望監視システムを採用した、刑務所・収容所
です。
当時の刑務所は、罪人を必要以上に苦しめたり、殺したりしていましが、ベンサムは、それに反対します。
功利主義に基づくと、
罪人の苦痛の合計>罪人の苦痛で犯罪が抑制されることによって増大する快楽の合計
となるため、不必要な苦しみや死刑は廃止するべきだと主張しました。
そこで、効率的に囚人を監視しながら更生させることが社会の効用を増大させることであるため、パノプティコンを提唱しました。
ベンサムによるパノプティコンの構想図
パノプティコンは、円形の刑務所で中央に監視用の塔が一本立っています。
囚人からは監視員を見ることができず、いつ見られているかわかりません。
これにより、囚人はいつも真面目に働き、更生のために努力をすると考えました。
ちなみに
ちなみに功利主義に基づくと、他人に迷惑をかけない(被害者のいない)犯罪は犯罪ではないということになります。
例えば、当時のイギリスでは同性愛が禁止されていましたが、ベンサムは合法化を提唱しました。同性愛は他者の効用を下げることなく当人の効用を増大できるためである。
2−2 功利主義的自由放任論
ベンサムは、功利主義的自由放任論を唱えました。
これは、自由放任が社会全体の利益を増大するときだけ認められるということです。
政府が介入した方が「最大多数の最大幸福」を達成できるなら、政府の介入が認められると唱えました。
これは、アダム・スミスの自由主義自由放任論とは異なります。
これは、自由それ自体に価値があると考えるため、政府の介入は自由の侵害は認められないということです。
アダム・スミスについてまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。
2−3 教育改革運動
ベンサム主義者は、教育改革運動を展開しました。
例
・University Collage, London (UCL) 設立
→(政治信条、人種、宗教を問わず受け入れたはじめての大学)
・ロンドンの幼児学校運動
・非国教徒の初等教育普及運動
・職工学院運動への後援 実用的な職業教育推進
・議会による教育実態調査
などの教育改革運動を行いました。
これは功利主義に基づいて、「教育の普及は社会全体の利益を高める」と考えたからです。
下層階級への教育支出<教育の普及による犯罪抑制・治安維持で増大する快楽の合計
だと考えたからです。
教育はすべての人に施されるべきであり、社会的にも効用を最大化すると主張しました。
2−4 奴隷制への反対
功利主義に基づくと、奴隷制度は廃止されるべきと考えられました。
これは、
奴隷主が得る利益<奴隷の苦痛
となるからです。
奴隷は自由労働と比べて非効率であり、利益が少なくなるため、するべきではないと考えられました。
Part 3:おすすめ本
もっと功利主義・ベンサムを学びたいという人は、以下の書籍がおすすめです。
Part 4:まとめ
いかがでしたか?
ベンサムの功利主義をまとめると、
- 快楽主義:快楽=善 苦痛=悪
- 功利主義:快楽を増大させて、苦痛を減少させる
- 社会全体の利益は個人の効用の合計
- 快楽計算:快楽と苦痛の量を計算して、善悪を判断
- 制裁によって、社会の利益を確保
以上です。
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最後までご覧いただきありがとうございました。