【厚生経済学】旧厚生経済学から新厚生経済学までの展開をわかりやすく解説

Introduction:厚生経済学とは?

厚生経済学とは、

倫理学と密接な関係がある経済学の規範理論的研究で、ミクロ経済学の一分野

です。

経済学には、環境経済学農業経済学労働経済学など、様々な分野を経済学的観点から分析していく学問があります。

厚生経済学は、経済環境における最適な状況を規定し、その達成度やそのための適切な経済政策などを解明する学問です。

本記事では、厚生経済学の歴史的展開を解説していきます。

Part 1:内容解説【厚生経済学】

厚生経済学は、初期の旧厚生経済学からはじまり、現代の新厚生経済学へと繋がります。

厚生経済学の展開を、①旧厚生経済学 ②新厚生経済学という点から解説していきます。

【厚生経済学】 要点
・ピグーの旧厚生経済学
・新厚生経済学:1930年代から展開した厚生経済学
・旧厚生経済学批判:価値判断を伴う旧厚生経済学は科学ではない
・パレート最適:厚生が最適な状態
・ジョン・ヒックス:新厚生経済学の基礎を気づいた一人。無差別曲線や消費者余剰を導入。
・アローの不可能性定理:望ましい社会選択における定理・望ましい4つの条件を満たす選択は存在しない。

1−1 旧厚生経済学:ピグー

厚生経済学の始まりは、アーサー・セシル・ピグー(Arthur Cecil Pigou)が1920年に出版した「厚生経済学」という著書であると言われています。

ピグーは、通常の経済学が経済モデルを用いて希少な資源を効率的に配分するにはどうするかを分析する「事実解明的アプローチ」であると考えました。

それに対して厚生経済学は、経済学は人間の生活を改善する使命がある「規範的アプローチ」であると主張しました。

ピグーは、厚生経済学の3原則を提示しました。

厚生経済学の3原則
富の増大:富の国民配分の平均量が大きいほど社会の経済厚生が大きい

平等原理:貧困層に行き渡る富の平均量が大きいほど社会の経済厚生が大きい

景気の安定:富の配分量の変動が少ないほど社会の経済厚生が大きい

富の増大原理は、国民の富の平均量が大きいほど社会の経済厚生が大きくなるということです。

平等原理は、限界効用逓減の原理に基づいて、富裕層が追加的に得られる富によって増大する効用の増加分よりも、貧困層が富を得ることによって増大する効用の増加分の方が大きいため、社会の経済厚生が大きくなるということです。

景気の安定原理は、好況と不況が繰り返す不安定な状況よりも、安定した景気の方が社会の経済厚生が大きくなるということです。

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このように、ピグーなどが展開した初期の厚生経済学は「旧厚生経済学」と呼ばれます。

1−2 新厚生経済学

旧厚生経済学に対して、1930年代から展開した厚生経済学は「新厚生経済学」と呼ばれます。

新厚生経済学を①旧厚生経済学批判 ②パレート ③厚生経済学の基本定理 ④ジョン・ヒックス ⑤アローの不可能性定理という5点から解説していきます。

1―2―1 旧厚生経済学批判

新古典派経済学者のライオネル・ロビンズ(Lionel Robbins)は、「経済学の本質と意義」という著書の中で、旧厚生経済学を批判しました。

ロビンズは、旧厚生経済学が効用の比較をしている点に着目し、その不可能性を指摘しました。

価値判断を伴う効用の比較は、科学としての経済学が扱うものではないということです。

個人の効用はそれぞれ異なるため、それを比較すると価値判断が入ってしまいます。

社会科学としての経済学は、価値判断を伴ってはならないというのがロビンズの考えです。

そのため新厚生経済学は、数学的・科学的な分析で厚生の改善を目指すものに変化していきます。

1―2―2 パレート (Pareto)

パレートも、価値観に依存しない科学的な判断をできるような分析を目指しました。

パレートは契約曲線を用いて、厚生が最適な状態である「パレート最適」を達成する時が最も好ましい状態であるというモデルを確立しました。

契約曲線上のパレート最適である点において、どの点を選択するかは個人の価値判断であるため、経済学では決定できないと考えました。

経済学ができるのは、パレート最適な状態を提示するまでであるということです。

パレートについて詳しくまとめた記事は以下のリンクからご覧いただけます。

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1―2―3 厚生経済学の基本定理

厚生経済学の基本定理

第一基本定理

市場の普遍性と完全競争の仮定が満たされるとき、ワルラス均衡が実現する資源配分はパレート効率的である(Wikipedia)。

第二基本定理

市場の普遍性、完全競争、凸環境の仮定が満たされるとき、一括型の適当な課税・補助金によって、任意のパレート効率的な資源配分がワルラス均衡として実現される(Wikipedia)。

厚生経済学には以上の2つの基本定理があります。

これらはパレート効率性と競争均衡配分の関係について述べられています。

これらは、ジェラール・ドブルー(Gerard Debreu)とケネス・J・アロー(Kenneth Joseph Arrow)によって数学的に証明されました。

1−2―4 ジョン・ヒックス (John Hicks)

ジョン・ヒックスは、「価値と資本」という著書を通して新厚生経済学の基礎を築いた一人です。

ヒックスは、無差別曲線による効用最大化理論の導入や弾力性の概念による一般均衡理論消費者余剰といった概念を用いて新厚生経済学を展開しました。

これらの理論・概念は、今のミクロ経済学の中心的な理論となっています。

「価値と資本」は、ポール・サミュエルソン の「経済分析の基礎」と並んで、現代のミクロ経済学の基礎を確立したと言われています。

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1−2―5 アローの不可能性定理

ケネス・J・アローは、ヒックスと同様に、新厚生経済学の基礎を築いた一人です。

アローの不可能性定理一般不可能性定理)は、社会選択における定理です。

アローは、望ましい社会選択を達成するための4つの条件を提示しました。

望ましい社会選択のための条件

非独裁性:社会的選好が特定の個人と一致してはならない

独立性:社会的選好が無関係な選好によって影響されないこと

普遍性:社会的な選好において、個人がどのような順位をつけても良い

パレート原理:社会の全員の選好が「A>B」で一致している場合、社会的選好も「A>B」となる

アローは、望ましい社会選択を達成するための条件として以上の4つを挙げました。

アローの不可能性定理は、以上の4つの条件が同時に揃う社会選択のルールが存在するのは不可能であるということです。

このような民主的な社会選択のルールは存在しないというのがアローの考え方です。

Part 2:おすすめの書籍

もっと「厚生経済学」を学びたいという人は、以下の書籍がおすすめです。

Part 3:まとめ

いかがでしたか?

「厚生経済学」をまとめると、

【厚生経済学】 まとめ
・ピグーの旧厚生経済学
・新厚生経済学:1930年代から展開した厚生経済学
・旧厚生経済学批判:価値判断を伴う旧厚生経済学は科学ではない
・パレート最適:厚生が最適な状態
・ジョン・ヒックス:新厚生経済学の基礎を気づいた一人。無差別曲線や消費者余剰を導入。
・アローの不可能性定理:望ましい社会選択における定理・望ましい4つの条件を満たす選択は存在しない。

以上です。

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最後までご覧いただきありがとうございました。

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