アダムスミス 【道徳感情論】とは?共感・公平なる観察者など、わかりやすく解説

Introduction:アダムスミス「道徳感情論」とは?

アダム・スミスの「道徳感情論」(The Theory of Moral Sentiments)とは、

1759年に出版された、理性に頼らずに、法・社会秩序が形成されていく過程を分析し、道徳の一般規則をどのように感情から導くかを書いた著作。

つまり、道徳の法則社会秩序感情によって形成されていく過程を書いたものです。

スミスは、「共感」や「公平なる観察者」などの概念を用いて説明しました。

スミスの書物といえば経済学書の「国富論」の方が有名ですが、倫理学書の「道徳感情論」にも非常に有益な情報が書かれています。

スミスは経済学者のイメージが強いですが、哲学者倫理学者でもあります。

「国富論」とセットで学ぶことで、スミスの思想をより深く理解することができます。

また、社会の秩序形成について述べたスミスは、社会契約論を唱えたトマス・ホッブズを批判しています。

本記事では、①「国富論」と「道徳感情論」の関係性 ②「道徳感情論」の内容 ③スミスのホッブズ批判を解説していきます。

Part 1:「国富論」と「道徳感情論」

「国富論」は、自由放任や分業について書かれた経済学書です。

それに対して「道徳感情論」は、道徳・社会秩序の確立について書かれた倫理学書です。

道徳感情論は、経済活動の土台となる社会秩序について書かれた、国富論の前提となる書物です。

「国富論」と「道徳感情論」の関係性

つまり、「道徳感情論」を学ぶことで「国富論」をより深く理解することができるようになります。

国富論についてまとめた記事はこちらです。是非ご覧ください。

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Part 2:内容解説:市場を支える社会秩序の形成

道徳感情論とは、

1759年に出版された、理性に頼らずに、法・社会秩序が形成されていく過程を分析し、道徳の一般規則をどのように感情から導くかを書いた著作。

です。

スミスは、「共感」・「公平なる観察者」という概念を用いて、感情による法・秩序形成を説明しました。

要点は以下の通りです。

【道徳感情論】 要点
・人々は共感を求めるために極端な意見を避ける
・公平なる観察者という第三者の目からの判断を重視
・自分を客観的に見ることで良心に従うことができる
・良心に従わない弱者は自己欺瞞に陥る
・自己欺瞞を解決するために強制力が必要
・人々の共感と社会経験によって道徳の一般法則が形成

それでは詳しく解説していきます。

Keywords:共感・公平なる観察者・予定調和・自己欺瞞

2-1 共感

スミスは、人間は、共感されると嬉しいから共感を得ようとする生き物であるという前提を述べました。

極端な意見は共感を得にくいため、元の感情を抑えて共感を得ようとします。

 

 

このような感情・感覚は社会の調和が保たれるよう予定調和的につくられたと考えられています。

ここからどうやって道徳の法則を導くのでしょうか。

2-2 公平なる観察者の共感

スミスは、公平なる観察者という概念を用いました。

公平なる観察者とは、

利害関係がなく公平に行為の妥当性を判断してくれる人

公平なる観察者の共感を得るということは、すなわち良心の声に耳を傾けるということを意味します。

ここでスミスは、公平なる観察者の共感を重視する賢人と重視しない弱者を分けて考えました。

賢人は、自身の考えや行動を客観的に観察し、良心に従って生きようとします。

それに対して弱者は、公平なる観察者の共感を軽視し、良心の声に耳を傾けません。

それによって、弱者は自己欺瞞に陥ります。

自己欺瞞とは、

良心に反した行動をしながらも、無理に正当化し、自分を騙している状態です。

 

 

スミスは、こうした弱者の自己欺瞞を解決するために、道徳の一般法則が作られると考えました。

2-3 道徳の一般規則

道徳の一般法則は、賢人達の共感の中で自然と作られると考えました。

そして、良心に従わない弱者は、道徳の一般規則によって「正義」を強制される必要があるとしました

この一般規則に従わない人は処罰の対象となりました。

公平なる観察者が非難する行為は、社会秩序を破壊すると考えました。そのため、厳格な一般法則が形成されると仮定しました。

 

 

反対に、公平なる観察者が称賛する行為は、秩序維持のためには不可欠ではないため、強制されることはありません。各人の自主性に依存すると主張しました。

こうした一般規則は、人々の共感社会的経験の蓄積によって形成されると考えました。

この社会秩序では、人々の利己心が適度に抑制されると考えました。

共感への欲求と一般法則による規制によって利己心の無限の解放が抑制されるとしました。

このようにして、共感を得たいという感情から道徳の一般法則を導くことができると主張しました。

このような一般法則に基づいて、社会の秩序・法が形成されていく過程を示しました。

【道徳感情論】 要点
・人々は共感を求めるために極端な意見を避ける
・公平なる観察者という第三者の目からの判断を重視
・自分を客観的に見ることで良心に従うことができる
・良心に従わない弱者は自己欺瞞に陥る
・自己欺瞞を解決するために強制力が必要
・人々の共感と社会経験によって道徳の一般法則が形成

Part 3:スミスのホッブズ批判

スミスは、道徳の一般法則・社会秩序の確立は「感情」によって導かれると主張しました。

つまり、法がない状態でも人間は感情によって正邪を判断できると考えました。

それに対してホッブズは、法がない状態では人々は欲望に従って、奪い合いが起こり戦争状態になる(万人の万人に対する闘争)と主張しました。

スミスは、ホッブズの自然状態=戦争状態という前提は誤っているとして批判しました。

 

 

ホッブズのリヴァイアサンを詳しくまとめた記事がこちらです。是非ご覧ください。

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Part 4:おすすめ本

もっと「道徳感情論」を学びたいという人は、以下の書籍がおすすめです。

Part 5:まとめ

いかがでしたか?

「道徳感情論」をまとめると、

 

【道徳感情論】 まとめ

・道徳感情論は国富論の前提となる社会秩序について書かれた著作

・共感・公平なる観察者の目によって道徳の一般法則が形成される

・スミスはホッブズの「自然状態=戦争状態」という前提を批判した

以上です。

スミスについてもっと学びたい人は、以下の記事をご覧ください。

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最後までご覧いただきありがとうございました。

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